PART1 クリックで勉強する 後発医薬品TOPICS

 後発医薬品とは何か。保険処方せんの様式が変更され、国をあげてその使用が推進されているが、現場ではまだ、必ずしも正しく理解されておらず、混乱する場面もあるという。
 診療報酬に関わる保険制度上の対処法については、厚生労働省の「通知等に係る疑義解釈資料」や日本薬剤師会の「調剤報酬改定等に係るQ&A」を見てもらうとして、本欄では、患者と向き合うときに、薬剤師として押さえておきたいポイントをいくつかピックアップしてみた。

[後発医薬品の基本知識]

Q1.
なぜ、後発医薬品は安いのか?
Q2.
後発医薬品の「生物学的同等性」とは、何か?
Q3.
溶出試験法って、なんだ?

[保険関連に関する問題]

Q4.
後発医薬品が処方されているのに、「後発医薬品への変更可」の欄に署名がある。他の後発品を選ぶことはできるのか?

[後発医薬品に関する今後の課題]

Q5.
生物学的同等性があるなら、どれを選んでも同じ? 変更する際の注意点は?
Q6.
後発品は先発品に比べてすべてに劣っているというイメージがあるのだけれど、すぐれている点はないのか?
Q7.
何か問題が起きたら、薬局のせいになるのか?
 
Q8.
後発医薬品は、ちゃんと安定して供給されるのだろうか?

[後発医薬品の基本知識]

Q1.
なぜ、後発医薬品は安いのか?

A1. 後発医薬品とは、先発医薬品である既承認医薬品の再審査期間および特許期間経過後に「同一の有効成分を含む同一の剤形の製剤で、効能・効果、用法・用量が等しい医薬品」として承認を得て発売される薬とされているが、承認申請時に、たとえば以下のような資料が不要になる。
 ・構造決定や物理的・化学的性質に関する資料
 ・急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性などに関する資料
 ・薬理作用に関する資料
 ・臨床試験の試験成績に関する資料
 臨床試験などは莫大な費用と時間がかかる。これらが不要なのだから、当然安くなる。
 しかし、安定性に関する一部の試験(加速試験)や「規格及び試験方法」に関する資料はやはり必要。また、後発品だからこそ特別に必要となる試験もある。それが「生物学的同等性」に関する試験だ。

もっと詳しく知りたい!

・医薬品の承認申請についての厚生労働省通知
 厚生労働省ホームページ »

Q2.
後発医薬品の「生物学的同等性」とは何か?

A2.  バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が先発医薬品と同等であること。もし同等ならば、今のところ有効性と安全性も同等と考えられている。
 具体的には、経口剤の場合、後発医薬品と先発医薬品を個々に投与し、Cmax(最高血中濃度)、AUC(血中濃度時間曲線下面積)等を比較することにより、同等であるか否かを評価している。なお、試験法の詳細は「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」を参照。

もっと詳しく知りたい!

・生物学的同等性に関する解説
 医薬工業協議会(医薬協)ホームページ »
 
・後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラインの詳細
 国立医薬品食品衛生研究所 薬品部ホームページ »

Q3.
溶出試験法って、なんだ?

A3. 内用固形製剤を対象として、主成分の溶出を試験する方法。
 後発医薬品では、著しい生物学的非同等性を防ぐための指標を得ることができると考えられている。
 1995年4月以降に承認申請された医薬品では、溶出試験を含むガイドラインのもと、溶出規格が設定されている。しかし、それ以前に申請された医薬品では、溶出試験が規格に設定されていない。
 そこで、97年から「品質再評価」がスタート。95年3月までに承認申請された内用固形製剤について、溶出試験を課すこととなった。だから、95年4月以降に承認申請された医薬品は、品質再評価の対象ではない。
 後発医薬品では、溶出試験の結果を先発品と比較する。これは、「先発品と同じように溶ければ、同じように吸収され、同じように効くだろう」という理屈からだ。そして、品質再評価の結果が収載されているのが「医療用医薬品品質情報集」(通称「オレンジブック」)。書籍として販売されているが、インターネットでも見ることができる。

もっと詳しく知りたい!

・品質再評価や溶出試験に関する解説
 医薬工業協議会(医薬協)ホームページ »

オレンジブック統合版ホームページ »

[保険関連に関する問題]

Q4.
特定の後発医薬品の銘柄を処方し、処方せんに「後発医薬品への変更可」の欄に署名等を行った場合でも、患者の求めがあった場合などについては、保険薬局において、患者が他の後発品を選択することは可能か?

A4. 厚生労働省が示したQ&Aによれば、回答は以下のとおり。
「差し支えない。なお、その場合であっても、実際に調剤した医薬品に関する情報について保険薬局から情報提供がなされることが必要」

[後発医薬品に関する今後の課題]

Q5.
生物学的同等性があるなら、どれを選んでも同じ? 変更する際の注意点は?

A5. 一般に、現在の試験法で承認された後発医薬品、再評価が終了した後発医薬品では、生物学的非同等性の問題が生じる可能性は少ないと考えられている。(医薬ジャーナル 2003年11月号より)
https://www.iyaku-j.com/MDJOURNA/iyaku/doc/2003-11/066tokusyuu.htm

[ポイント]変更する際の注意点

 しかし現場では、変更する際、注意しなければならないことがある。

(1)添加物が異なる点

先発医薬品と後発医薬品、また後発医薬品どうしでも、添加物が違うことがほとんど。変更したことによって、患者さんにアレルギーが起こることもあるので、要チェックだ。

(2)錠剤などの大きさが、まちまちである点

患者さんの「飲みやすさ」にも配慮する必要があるだろう。

(3)先発医薬品と後発医薬品とで、適応症が異なるケースもある点

たとえば、プロトンポンプ阻害剤の「ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」、非ステロイド性消炎鎮痛剤の「歯痛」など。先発品から後発品へ変更の場合、ケースによっては処方医に確認することが必要だ。

(4)データが不十分なもの

品質再評価(溶出試験)が終了していないもので、かつ同等性試験(薬物動態)が動物実験であるものは比較の基準がないので要注意。

(5)安全域(中毒量と治療量の範囲)が狭いもの

つまり小さな変動でも大きな身体的影響を及ぼす薬の場合、変更は要注意。

(6)徐放性製剤など

徐放性が異なるケースも考えられるので、これにも注意を要する。

(7)さらに、後発医薬品は、薬物動態も本当に「同じ」なのか? という、本質的な問題もある。

たとえば、内田信也氏(静岡県立大学薬学部薬剤学)らの試験結果。ある薬物(何かは明らかにされていない)の先発品と後発品6製剤を検討対象として、「後発医薬品の同等性ガイドライン」に準拠し、ヒトでの生物学的同等性試験を実施した。その結果、先発品のAUCに対し後発品のそれは13.5〜140%、同様にCmaxは15〜147%だったという(第26回日本臨床薬理学会年会,抄録集:臨床薬理,Vol.36,Suppl.,S287頁,2005年より)。あまりにも違いすぎるという感はぬぐえない。
  各後発品メーカーが作成している「製品別比較表」(先発品との比較データシート)を見ると、溶出試験や血中濃度比較試験の結果は、先発品とほとんど一致している。しかし、患者さんは十人十色。これらのデータを見て安心しきることなく、「後発医薬品に変更したら、患者さんに何か変化がおこるかもしれない」という視点は、つねに持っていたい。後発医薬品に変更した場合は、必ず追跡調査をして患者さんの安全と使用感を確認しよう。

 なお、日本薬剤師会では、いずれ、先発医薬品と後発医薬品の品質を比較できるデータベースを構築し、会員に公表する予定という。

Q6.
後発品は先発品に比べてすべてに劣っているというイメージがあるのだけれど、すぐれている点はないのか?

A6. 確かに後発医薬品に対する不安感や不信感は根強く残っている。事実、効かなかったという声も聞く。だが、なかには後発医薬品の方がすぐれている医薬品も存在する。たとえば、
(1)アルミパックになっていて薬剤安定性にすぐれているもの
(2)嚥下しやすい速崩錠の存在
(3)ヒートシート工夫されていて使い勝手がよいもの など
臨床的に同じなら、薬学的差違は気にならないという医師の声や、後発医薬品を使っているが有効性、安定性等に関する問題は発生していないという病院薬剤師の意見もある。大事なのは、先発医薬品だからとか後発医薬品だからではなく、多くの薬剤のなかから品質や使い勝手がよく、かつ患者の要望に添って経済的なものを選ぶかで、薬剤師の選別眼が問われる。

Q7.
何か問題が起きたら、薬局のせいになるのか?

A7. 厚生労働省保険局の麦谷眞里医療課長は、「保険薬局で先発医薬品から後発医薬品に変更して問題が起きた場合は、処方せんを発行した医師の責任ではなく、薬局側の責任になる」とした。これは、3月25日に開催された日本病院会の特別講演での発言だ(社会保険旬報,No2276,35頁,2006年4月11日号より)。
  どのような状況での発言だったのか、その前後関係が不明であるため、この部分だけを鵜呑みにして判断を下すことはできない。現実には、実際に何か問題が発生し、裁判が起き、判決が出てみなければわからないことである。
 しかし、薬剤師は薬の専門家、その薬剤師が関与して先発品から後発品に変更されることを考えれば、相応の責任が生じても不思議ではない。今後、注意深く見守りたい問題である。

Q8.
後発医薬品は、ちゃんと安定して供給されるのだろうか?

A8. 後発医薬品は「安定して供給されるのか否か」も重要な問題だ。かつては「売り逃げ」といって、1回だけ合成して作り、それを売り切ったら「終わり」というケースもあったと聞く。慢性疾患のため、1つの薬を長期に服用する患者さんもいるのだから、これでは困る。薬局側としても、発注したら速やかに、継続して納品されることが選択の要件となるだろう。
 そこで、厚生労働省は、日本製薬団体連合会会長あて、「後発医薬品の安定供給について」という通知を出している(平成18年3月10日付、医政発第0310003号)。
 この通知では、製造販売業者に対して「正当な理由がある場合を除き、少なくとも5年間は継続して製造販売し、保険医療機関及び保険薬局からの注文に迅速に対応できるよう、常に必要な在庫を確保すること」等を求めている。
 特に注目すべきは、「保険医療機関及び保険薬局からの苦情への対応」の仕組みが設けられたことだ。これは、日本薬剤師会等から、後発医薬品の安定供給に関する苦情を厚生労働省医政局経済課が受付け、当局が必要な調査や改善指導を行うもの。これに併せて、日本薬剤師会へも、会員等から苦情があった場合、所定の様式で連絡するよう、通知されている(平成18年3月10日付、医政発第0310004号)。
 このようなシステムもあることを、知っておこう。

○参考文献
・日本薬剤師会雑誌, Vol.58,134頁,2006年4月号。(上記通知の全文を記載)